自由にできる共謀マニュアル 〜頻出条文および裁判例〜


監視社会化と市民運動弾圧とを目的とした悪名高き共謀罪法案が多くの反対を押し切り、2017年6月15日に強行採決され、同年7月11日に施行された。

「共謀罪に萎縮しない」のスローガンを維持する上で、まず適用させないことが大切である。しかし、政府が共謀罪廃止の訴えを潰すため、必ずしも共謀罪を用いるとは限らない。

従来からの弾圧手法を用い、共謀罪反対運動を“過激派”や“テロ集団”に仕立てようとする動きはすでに起きている。

本稿を市民運動弾圧に抵抗するための理論武装マニュアルとして活用していただきたい。



目次

■ 市民が行う街頭宣伝に対して警察が「やめろ」、「許可はあるのか」、「無許可でやるのは犯罪だ」等と介入してくる。

■ 路上に横断幕、のぼり(バナー)を張ることや、パネルを立てかけることはできないとして干渉される。

■ 拡声機を使って街頭宣伝をしていると、「音量を下げろ」と干渉してくる。

■ 街頭活動に干渉する違法不当な警察官に対し、警察手帳を見せるよう求めても呈示しない。

2017年7月11日 “梅田座り込み解放区”への私服警官による弾圧の様子



■ 市民が行う街頭宣伝に対して警察が「やめろ」、「許可はあるのか」、「無許可でやるのは犯罪だ」等と介入してくる。

 ⇨表現の自由(憲法21条)の侵害であり、強制力なし。虚偽に基づく違法な行政指導である。

行政手続法
(行政指導の一般原則)
第三十二条  行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。

2  行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。


1、道路交通法(道交法)の規定

道交法77条1項4号は、「…道路において祭礼行事をし、又はロケーションをする等一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為」のうち、公安委員会が必要と認めて規則に定めた行為を行おうとする場合に、道路使用許可を受けなければならないと定める。

道交法は「一般交通に支障がある場合」ではなく、「一般交通に著しい支障がある場合」を要許可行為として取り締まっているので、ほとんどの場合、道交法違反との警察の説明は虚偽である。

道路交通法
(禁止行為)
第七十六条

3  何人も、交通の妨害となるような方法で物件をみだりに道路に置いてはならない。

4  何人も、次の各号に掲げる行為は、してはならない。

二  道路において、交通の妨害となるような方法で寝そべり、すわり、しゃがみ、又は立ちどまっていること。

七  前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が、道路における交通の危険を生じさせ、又は著しく交通の妨害となるおそれがあると認めて定めた行為

(道路の使用の許可)

第七十七条  次の各号のいずれかに該当する者は、それぞれ当該各号に掲げる行為について当該行為に係る場所を管轄する警察署長(以下この節において「所轄警察署長」という。)の許可(当該行為に係る場所が同一の公安委員会の管理に属する二以上の警察署長の管轄にわたるときは、そのいずれかの所轄警察署長の許可。以下この節において同じ。)を受けなければならない。

四  前各号に掲げるもののほか、道路において祭礼行事をし、又はロケーションをする等一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会が、その土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたものをしようとする者

第百十九条  次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。

十二の四  第七十六条(禁止行為)第三項又は第七十七条(道路の使用の許可)第一項の規定に違反した者

十三  第七十七条(道路の使用の許可)第三項の規定により警察署長が付し、又は同条第四項の規定により警察署長が変更し、若しくは付した条件に違反した者


2、裁判例

有楽町ビラまき事件判決(東京高判昭和41年1月28日判例時報443号26頁)は道路上の無許可ビラまきを無罪とした。


(1)裁判例によれば個人の表現の自由等の不当な制約にならないように、一般交通に相当高度な支障を与える行為類型だけが、道路交通法77条の道路使用許可を要する。



法第七七条の定める道路の使用に関する要許可行為の中には、その道路における行為自体が公益上若しくは社会の慣習上有意義であると考えられるものあるいは個人の表現の自由、生活上の権利に関するもの等も含まれるので、これと道路における危険の防止ないし交通の安全と円滑を図る必要とを調和させその妥当な限界を画するため、とくに「一般交通に著しい影響を及ぼすような行為」でなければならないという条件が置かれたものと考えるときは、それ(前述の「一般交通に著しい影響を及ぼす」ということが意味する一般交通に与える支障の程度)は相当高度のものを指すと解さなければならない。

“有楽町ビラまき事件判決”


(2)具体的な交通状況に照らして、通行人が若干歩調をゆるめる、身体を左右に向けて通り過ぎる、自動車が一時停車し進行することが可能であるような行為類型は、一般交通に著しい影響を及ぼすおそれがあるとは認められない。



被告人らの本件印刷物交付の規模、態様等その方法の具体的内容を見ると、被告人らは、前記有楽町駅中央日比谷口前とそごう百貨店との間の道路にほか二名の女性と通行者を間にはさむようにして二列に向い合ってほぼ固定した位置で立並び、手にしたビラ(本件印刷物)を、通行者が来るのを待って、前を通ればそのまま、後を通れば後を向いて、ときには接近して行って手渡す、いらないという人に無理に持って行けということはない、もらう人はちょっと立止まる恰好になるから後から来る人が若干歩調をゆるめる、いらない人は出されたビラにさわらないように身体を左右に向けて通り過ぎる、又道路の方向に進む通行人は被告人らが立っているところを避けて通ったとか、自動車が一時停車し若しくは左に寄って進行していったものがあるとかいうのであって、これを前述の同所における当時の交通状況に照らして考えると、被告人らの本件印刷物の交付が、一般交通にある程度の影響を及ぼしたことはこれを否定できないにしても、前述の意味での一般交通に著しい影響を及ぼすおそれがあつたとは認め難く、他に右認定を左右すべき信ずるに足る証拠はない

“有楽町ビラまき事件判決”


(3)ただし、例えば多数人が結集し、道路の通行が完全に遮断されるようなことが通常予測し得る行為類型であれば、要許可行為として道路使用許可を受ける必要があろう。



■ 路上に横断幕、のぼり(バナー)を張ることや、パネルを立てかけることはできないとして干渉される。

 ⇨従う必要なし。根拠法令もない。道交法であれば上記と同様に一般交通の著しい妨げにならないようにする。

横断幕、のぼり(バナー)を張ることやパネルを立てかけることは街頭宣伝に伴う一時的なものであり、屋外広告物の掲示にも当たらない。

屋外広告法
(定義)
第二条  この法律において「屋外広告物」とは、常時又は一定の期間継続して屋外で公衆に表示されるものであつて、看板、立看板、はり紙及びはり札並びに広告塔、広告板、建物その他の工作物等に掲出され、又は表示されたもの並びにこれらに類するものをいう。



■ 拡声機を使って街頭宣伝をしていると、「音量を下げろ」と干渉してくる。

 ⇨単なる行政指導か停止命令かを尋ねる。10メートル先で測定して85デシベルを超えていることを示された上での停止命令であれば、憲法違反の疑いが強いことを伝える。なおも干渉を維持されれば一時的に音量を下げて様子を見る。(大阪府条例を例に取るが、他の都道府県も同様の条例がある)


(1)大阪府拡声機規制条例では、拡声機から10メートル以上離れた地点において測定した音量が85デシベルを超える音を発生させることが禁止されている(ただし、電車内などもすぐ85デシベルを超える)。

ただし、車や鉄道、商業施設などの雑音が混ざっているときは、拡声機の発する音量を単独で測定することは不可能である。警察官に拡声機の音量が禁止されている水準に達しているとの根拠を求めるべきである。

大阪府拡声機規制条例
(拡声機による暴騒音の禁止)
第四条 何人も、拡声機を使用して、公安委員会規則で定めるところにより当該拡声機から十メートル以上離れた地点(権原に基づき使用する土地の区域内において拡声機を使用する場合にあっては、当該区域の外の地点に限る。)において測定したものとした場合における音量が八十五デシベルを超えることとなる音(以下「暴騒音」という。)を生じさせてはならない。


(2)同条例では、拡声機を使用した暴騒音の規制について、適用上の注意規定として表現の自由等を不当に制約しないようしなければならないと定める。通常の選挙活動に準ずる程度の通常の街頭宣伝であれば、これを取り締まるために同条例に基づく停止命令や刑罰を与えることは適用違憲となる。

(適用上の注意)
第二条 この条例の適用に当たっては、集会、結社及び表現の自由並びに勤労者の団結し、及び団体行動をする権利その他の日本国憲法の保障する国民の自由及び権利を不当に制約しないようにしなければならない。


(3)警察官の停止命令(または移動命令)に従わないときに罰則があるため、暴騒音の発生を一時的に停止し、警察が去ってから異なる行為として新たに再開すれば犯罪になることはない。

(停止命令等)
第五条 警察官は、前条の規定に違反する行為(以下「違反行為」という。)をしている者があるときは、その者に対し、当該違反行為を停止することを命ずることができる。
2 警察署長は、前項の規定による命令を受けた者が更に継続し、又は反復して違反行為をしたときは、その者に対し、二十四時間を超えない範囲内で時間を定め、かつ、区域を指定して、拡声機の使用の停止その他の違反行為を防止するために必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
(複数の拡声機の使用に対する勧告及び移動命令)
第六条 警察官は、二以上の者が近接した場所でそれぞれ拡声機を使用しており、かつ、これらの拡声機により生じている音が暴騒音となっている場合において、それぞれの拡声機を使用している者が第四条の規定に違反しているかどうかが明らかでないときは、これらの者に対し、当該暴騒音の発生の防止のために必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
2 警察官は、前項の規定による勧告を受けた者がその場所にとどまり、かつ、引き続き暴騒音が生じているときは、これらの者に対し、当該暴騒音の発生の防止のために、その場所から移動することを命ずることができる。
(罰則)

第十一条 次の各号の一に該当する者は、六月以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。

一 第五条第一項の規定による警察官の命令に違反した者

二 第五条第二項の規定による警察署長の命令に違反した者

三 第六条第二項の規定による警察官の命令に違反した者


(4)なお、暴騒音に至らない商業宣伝以外の拡声機使用は、大阪府生活環境の保全等に関する条例において時間、場所、音量などの生活環境への配慮する努力規定があるのみ。

大阪府生活環境の保全等に関する条例
(拡声機の使用の制限)
第九十六条 
4 商業宣伝以外の目的のために拡声機を使用する者は、規則で定める場合を除き、前項の規則で定める事項に配慮し、当該拡声機から発生する騒音が周辺の生活環境を損なうことのないよう努めなければならない。

また、一時的に拡声機を使用する場合であって周辺の生活環境を著しく損なうおそれがないときは上記の制限すらもない。

大阪府生活環境の保全等に関する条例施行規則
第六十八条 条例第九十六条第四項の規則で定める場合は、次に掲げる場合とする。
三 前二号に掲げる場合のほか、一時的に拡声機を使用する場合であって周辺の生活環境を著しく損なうおそれがないとき


■ 街頭活動に干渉する違法不当な警察官に対し、警察手帳を見せるよう求めても呈示しない。

 ⇨職務中の警察官は警察手帳の携帯義務があり、相手方の求めに応じ呈示する義務もある。身分を明らかにしないのは違法な取り締まりを行う予定があるからであり、警察手帳を示すよう厳重に抗議する。


(1)警察手帳規則(全国共通ルール)の規定

警察手帳規則は、職務の執行に当たり、警察官…であることを示す必要があるときは、証票(名前や所属が載っている身分証)及び記章(金属製のエンブレム)を呈示しなければならないとされている。

警察手帳規則(国家公安委員会規則)
(証票及び記章の呈示)
第五条  職務の執行に当たり、警察官、皇宮護衛官又は交通巡視員であることを示す必要があるときは、証票及び記章を呈示しなければならない。
(警察手帳の携帯)
第六条  警察手帳は、その取扱いを慎重にし、警察庁(警察庁内部部局、警察大学校及び科学警察研究所をいう。)にあっては警察庁長官、管区警察局にあっては管区警察局長、皇宮警察本部にあっては皇宮警察本部長、都警察にあっては警視総監、道府県警察にあっては道府県警察本部長が特に指定した場合を除き、常にこれを携帯しなければならない。


(2)警視庁警察手帳規程の運用について(東京都ルール)の規定

警視庁(東京都)では、「職務の執行に当たり、相手方から身分証の呈示を求められたとき」は、本体を開いて証票及び記章を呈示し、身分を明らかにしなければならない。警視庁警察手帳規程は全国共通ルールと同じ。その運用・解釈の通達が他道府県に必ずしもない。

警視庁警察手帳規程
(警察手帳の携帯)
第4条 警察官は、常に警察手帳を携帯しなければならない。ただし、所属長が勤務の性質上携帯の必要がないと認めたとき又は勤務外において携帯が適当でないと認めたときは、この限りでない。
(警察手帳の呈示)
第5条 職務の執行に当たり、警察官であることを示す必要があるときは、本体を開いて証票及び記章を呈示し、身分を明らかにしなければならない。


警視庁警察手帳規定の運用について(通達)
第2 運用上の留意事項
2 警察手帳の携帯(第4条関係)
(2)「勤務の性質上携帯の必要がないと認めたとき」とは、次に該当する場合をいう。
 ア 警戒、警備等警察手帳を携帯することが職務執行に支障があるとき。
3 警察手帳の呈示(第5条関係)
 「警察官であることを示す必要があるとき」とは、職務の執行に当たり、相手方から身分証の呈示を求められたとき、又はあらかじめ相手方に警察官であることを知らしめる必要があるときをいう。


(3)他道府県での運用について

全国共通ルールである「職務の執行に当たり、警察官…であることを示す必要があるとき」(警察手帳規則5条)の解釈は、地域差のあるような性質のものではない。警視庁の通達はあくまでも内部の運用指針であり、各道府県警察に運用指針が明示的に存在しなくとも警視庁と同様の解釈が当てはまると考えてよい。

東京オリンピック問題を考える弁護士有志の会

五輪災害と闘う弁護士の全国ネットワーク

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