東京オリンピック問題を考える弁護士有志の会は、2020年東京五輪から派生する人権侵害、社会的不正義、民主主義破壊に対抗し、克服していくための全国の弁護士ネットワーク。

設立趣意書

                                      2017年5月3日 

                    

 私たちは、基本的人権の擁護、社会正義の実現をその使命とする弁護士として、来るべき2020年、夏季オリンピックが東京で開催されることに伴い、次のような社会問題が生じ、または、これから生じようとしていることに強い危機感を抱いている。

1 非常事態の招致

 2020年東京オリンピックは、自然災害とは異なり、政府自ら招致する「非常事態」である。政府は、非常事態を口実に、「戦争ができる国」づくりを加速させている。

 政府は、テロ対策と称して治安警備を強化し、運動弾圧のための法制度や新機材の導入による監視社会化を進めながら、安全保障の名の下に軍備拡大を図っている。開催期間が終了しても、こうした状態が解除されることは決してないだろう。

 これと並行して、政府はナショナリズムを植え付けるオリンピック教育、新たに即位する天皇の開会宣言や全国を巡る聖火リレー等をもって、挙国一致の同調圧力を生み出し、「まつろわぬ人々」の炙り出しを目指している。

2 東日本大震災との関係

 2013年9月のIOC総会では、フクシマの状況が「アンダーコントロール」であるとして東京招致が決まった。そして東京オリンピックは、東日本大震災を乗り越え、復興した姿を世界に示すという意味で、「復興五輪」と位置付けられた。

 しかし、福島第一原発事故による汚染水は統御不能のまま排出され続け、除染や廃炉の目処すら立っていない。政府は東日本大震災の直後から、一貫して被害の実態に目を向けようとしてこなかった。

 「復興五輪」は未だ実現されていない復興を先取りするものであり、既成事実の積み上げによって東日本大震災を収束したことにする祭典である。

3 再開発と遺産(レガシー)の幻想

 東京オリンピック招致段階では、「世界一カネのかからない五輪」だと宣伝されたが、際限なく開催予算は膨れ上がり、オリンピック利権でゼネコンや一部の大企業だけが潤っている。この仕組みは、環境破壊と近隣住民の排除を伴う不当な再開発に繋がっている。

 残された巨大な競技施設は採算がとれない「負のレガシー」となって、オリンピック特需も聖火と共に燃え尽きて終了する。持続的な需要拡大や雇用創出という経済効果の試算は、何らの実証性もない粉飾である。

 労働者の使い捨て、社会保障のさらなる削減により、格差の広がりが予想される。市民に降りかかってくる東京オリンピックの負債は、一時的な感動や熱狂で埋め合わせるにはあまりに莫大で長期的なものとなろう。

 私たちは、東京オリンピックから派生するこうした人権侵害、社会的不正義、民主主義破壊に対抗し、これらを克服していくネットワークを構築するため、ここに弁護士有志の会を立ち上げる。

以上

呼びかけ人

大久保秀俊(城北法律事務所)、喜久山大貴(市民共同法律事務所)、久保木太一(城北法律事務所)、下地聡子(沖縄合同法律事務所)、辻田航(北千住法律事務所)、山田聡美(渋谷共同法律事務所)

東京オリンピック問題を考える弁護士有志の会